UP FOOD PROJECT

食のアップサイクルの動向

食のアップサイクルの動向

2022年は資源高に円安、ウクライナショックが重なったことで、穀物、飼料、水産物などの食料価格が軒並み上昇しています。食料の6割を輸入に依存している日本の持続可能性の脆弱性が顕在化した年といえるでしょう。

本稿では、日本の食品産業の持続可能に関する課題を指摘するとともに、そうした課題解決に向けた取り組みの一つであるアップサイクルの動向について紹介します。

日本の食品産業の持続可能性に関する課題

日本の食品産業の持続可能に関する課題を「原料調達」と「外部不経済の内部化」の2つの側面から提示します。

原料調達リスク

原料調達リスクは供給と需要の両面から顕在化しつつあります。それぞれの要因を一覧にしました。

日本の原料調達リスク
【出典】Koru Inc.

供給面では、①気候変動による干ばつ・洪水等の増加による収量低下、②土地や水利用の限界による収量増加の限界、③生態系破壊や乱獲による資源減少、といった構造的な要因の他に、④ロシアによるウクライナ侵略やCOVIDのパンデミックによるサプライチェーンの混乱、といったイベントによる要因も挙げられます。

需要面では、⑤世界人口の増加による食料需要の増加、⑥新興国の経済成長に伴い、家畜の肉を食べる人が増加することによる飼料用穀物と水需要の増加、⑦バイオ燃料・素材需要の増加、といった要因が挙げられます。

これらの要因を背景として食料価格は世界的に上昇傾向にあります。その一方で、日本は人口減少と高齢化によって食料需要が減少していることから購買力が低下傾向にあり、他国との食料調達競争に敗れる危険性が高まっています。

外部不経済の内部化

2015年のパリ協定以降、世界は欧州が先導する形で温室効果ガスの排出削減に向けた対策を進めています。また、同年に国連で採択されたSDGsの達成に向けて、環境、社会、経済の持続可能性を高めるための取り組みも活発化しています。

持続可能性に対する機運の高まりによって、あらゆる産業活動が、地球環境や人間社会に対してどのような影響を与えているか、持続可能かどうかが問われるようになってきています。

国際的な食糧と土地利用分野のNGOであるFOLU(The Food and Land Use Coalition)が2019年9月に発表したレポート「Growing Better report 2019」によれば、2018年時点における世界のフードシステムは年間の創出価値が約10兆ドル(USドル.以下同様)であるのに対し、目に見えないコストが年間約12兆ドルに達するとされています。

目に見えないコストの内訳は、健康に関するものが6.6兆ドル、環境に関するものが3.1兆ドル、経済に関するものが2.1兆ドルとなっています。目に見えないコストの要因の例を示すと、健康に関しては「消費パターンの変化によって20億人の大人が過体重または肥満(確信度高)」、環境に関しては「農業・林業及びその他の土地利用は2007〜16年の世界全体の人為的活動に起因する温室効果ガスの排出量の約23%に相当(確信度中)」、経済に関しては「生産される食料の25-30%は損失または廃棄となっている(確信度中)」といったものが挙げられます。

これまで、企業は温室効果ガスをどれだけ発生させたとしても、コストを負担する必要はありませんでしたが、今後は、炭素税の導入や二酸化炭素排出権の購入といった形でコストを負担させられるようになることが予想されます。

このような形で、これまでは負担せずに済まされていたコストを負担しなければならなくなる、いわゆる「外部不経済が内部化する」という流れが、温室効果ガス以外にも波及していく可能性があります。企業は今後、こうした「外部不経済の内部化」に向き合っていかなければなりません。

アップサイクルについて

温室効果ガス排出による気候変動や、無駄使いによる資源枯渇といった持続可能性の課題に対する解決策の一つとして「アップサイクル」が注目されています。

アップサイクルの定義

アップサイクルとは、「捨てられるものに価値を付加して新しく別のものに生まれ変わらせること」を意味しています。「創造的再利用」とも呼ばれ、アイデアやデザインが重要な役割を果たすといわれています。

ドイツの「Salvo NEWS」という建築物のリユースに関するメディアで、ソーントン・ケイ氏が1994年に「ダウンサイクル」という言葉とセットで紹介したことが始まりとされています。

広義にはリサイクルの一種であり、原料に戻したり分解したりする際にエネルギーを使用するリサイクルに対し、そのままの形や特徴を生かすことが多く、環境への負荷を抑えられる傾向があると言われています。

アップサイクルの市場規模

コンサルティング会社のアクセンチュアが2015年に公表したレポートによると、サーキュラー・エコノミーの市場規模は2030年には4.5兆ドルに達すると予測されています。また、サーキュラーエコノミー市場を以下の4つに区切って、それぞれの市場規模を示しています。

①無駄になっている資源の代替(再生可能エネルギー等) 1.7兆ドル
②使われていない遊休資産の活用(シェア) 0.6兆ドル
③まだ使える製品の活用(中古品市場) 0.9兆ドル
④捨てられている素材価値の回収(アップサイクル等) 1.3兆ドル

アップサイクルは4番目に含まれており、リサイクルや製品回収、エネルギー回収までを含んだ形ではあるが約1.3兆ドルの市場規模とみられています。

食のアップサイクルに関する動向・事例

アップサイクルは様々な業界において取り組まれていますが、食の分野でも注目度が高まってきています。

海外の動向・事例

米国では2019年に「アップサイクルフード協会(Upcycled Food Association) 」が設立され、2020年にアップサイクル食品の定義を発表、2021年に食品廃棄を防止する製品を示すアップサイクル認証を発表しています。

また、調査会社フューチャー・マーケット・インサイトによると、米国の2019年におけるアップサイクル食品市場規模は約467億ドルと推定され、年率5%以上のスピードで成長しているとのことです。

欧州でも多くのスタートアップが生まれています。一例を挙げると、デンマーク発の「Kaffe Bueno」は、コーヒーの粉から脂質を抽出し、それらを標準的な小麦粉の粒子サイズに一致するように滅菌および粉砕した粉末を製造。ベーカリー・菓子・ピザとパスタ・健康的なスナックバーの材料等として販売するとともに、抽出オイルをスキンケア化粧品の原料や飲料の香料・保存料としても製造・販売しています。

欧州の特徴としては、世界的にみてもラグジュアリーブランドが多く、サステナブルな取り組みに対して積極的であることから、アパレル業界において食のアップサイクルとのコラボレーション事例が多く見られることです。

一例を挙げると、フランスと並ぶワインの産地であり、良質な本革製品で知られるイタリアで2016年に設立されたスタートアップ「VEGEA」は、年間140億トンほど廃棄されるぶどうの搾りかすから、本革に劣らない見た目としなやかさを備えたヴィーガンレザーを作り出すことに成功しました。その人工皮革はスウェーデンのファストファッションブランドH&Mのカプセルコレクションや、英高級自動車メーカーのベントレー100周年記念コンセプトカーのシートに採用されるなどの実績が生まれています。

そのほかにも、りんごの廃棄物から作られたアップルレザーなどの、食品廃棄物をアップサイクルした生地が「ヴィーガンレザー 」としてアパレル製品に採用されるケースが多くなっています。これらは、動物愛護や環境保護といったヴィーガニズムの視点からも注目されています。

国内の動向・事例

日本における食のアップサイクルは2019年頃から取り組みが始まっています。

2019年9月、農林水産省が事務局を行うフードテック官民協議会内に、廃棄される素材を食品・食材の原料として使い、循環型の体制で生産する「サーキュラーフード®︎」を推進するサーキュラーフード推進ワーキングチームが発足しました。2021年には、COVID感染拡大による飲食店の営業自粛の影響から、外食向けの食材が大量に行き場を失う事態が多く発生し、メディアでも積極的にとりあげられたことでフードロスに対する関心が高まり、アップサイクルという手段を用いて課題解決に取り組む事業者の活動が活発化しました。

次に、国内の食に関するアップサイクルに関して、アップサイクルした製品が「食品」か「食品以外」かに分けて事例を紹介します。

食品は、アップサイクルする際の加工方法によって分類できます。代表的な加工方法としては、乾燥、溶解、抽出、発酵、蒸留などが挙げられます。

乾燥は代表的な加工方法として用いられています。アップサイクルの事例としては、海苔の技術を応用し、規格外野菜の旨味や栄養素をぎゅっと凝縮してシートにした「ベジート®︎」を開発したアイルが知られている。溶解では酵素技術で規格外果物を皮ごとペースト化したピューレを開発したフードランド、発酵ではコーヒー粕を発酵してアップサイクルした食品素材を開発したソーイ、蒸留では日本酒造りの過程で廃棄されてきた酒粕をリユースしてクラフトジンを開発したエシカル・スピリッツなどが挙げられます。

食品以外の物としては、化粧品、紙、代替プラスチック、アパレル製品(染色)、その他(建材、クレヨン等)に分類できます。

化粧品へのアップサイクルの事例としては、食品残渣を発酵アルコール(エタノール)をはじめとした原料や化粧品へアップサイクルしているファーメンステーションや、飲料メーカーがジュースを作った後に残るイヨカンの皮由来セルロースナノファイバーを使用した化粧品を開発した愛媛県の産官学連携の取り組みなどが挙げられます。

紙へのアップサイクルの事例としては、非食米を紙に漉き込んだ洋紙を開発したペーパル、卵殻とプラスチックを混ぜて作ったプラスチックで食器を開発したSAMURAI TRADING、ブルーベリージュースの搾りかすなどの食品残渣さを使って染色したアパレル製品を開発した艶金などが挙げられます。

おわりに

国内外において食品残渣を食品や食品以外の物にアップサイクルする取り組みが活発化しています。

食料の6割を輸入に依存している日本においては、アップサイクルによる食品の有効活用は原料調達リスクへの対策の一つになり得ます。同時に、アップサイクルによって石油由来の原料の使用量削減や、焼却量の削減につながるため、外部不経済の内部化という潜在的な課題に対しても有効な対策にもなります。

「もったいない」という日本語が”MOTTAINAI”という世界共通語になったように、元来日本人は物を大切にする精神をもっていると思われます。欧米の追随ではなく、日本がアップサイクルの分野で世界をリードする日が来ることを願ってやみません。